死を前にして、短歌や俳句など、詩的な短文を残すことによって自身の人生の纏めを言葉にする、辞世の句。現代では、辞世の句を詠むというようなことは、なかなか聞きませんが、もともとは東アジアに特有の文化であり、中世以降の日本では、特に多く残されるようになったようです。
辞世とは、文字の通り、世を辞す、すなわち死ぬことや死の別れのこと、またその死に臨んで残す詩歌のことを意味します。
和歌や俳句、詩作などがそれほど身近ではなくなっていることなどもあり、あまり辞世の句を残すということはないのかもしれませんが、近頃では、似たような概念として、「終活」や、「エンディングノート」といった言葉も使われています。
また、古くからある言葉としては、「遺言」もあります。辞世の句も、終活やエンディングノートも、遺言も、終わりに向けての準備の一つ、という点では同じかもしれません。
ただ、終活は、人生の終わりに向けての整理や準備などを広く意味し、その一環でエンディングノートの作成もあります。エンディングノートとは、法的拘束力はないものの、自由な形式で書き、死後における希望や様々な情報、家族に伝えておきたいこと、人生の振り返りなどを記載しておく文章のことです。
遺言となると、もう少し意味が絞られ、自分の死後のために、財産分与などの件に関して家族や親族に向けたものを指すことが多く、この場合、法律の規定に従って作成されれば、法的拘束力を持ちます。
一方、辞世の句は、自分の人生を振り返り、短い詩的な文として残す、という点が、エンディングノートや遺言などとの違いと言えるかもしれません。ただ、死を意識して、自分の人生を振り返り、エンディングノートに纏めておきたい想いを、和歌や俳句、詩などで短く表現すれば、それは辞世の句と言えるでしょう。